2012年1月20日金曜日

バングラデシュ珍夜鈍行.第2珍:五感で気付く、こんにちはを言う前に、唐突でもない愛の話




『荒野のロマネスク』を書かれた文化人類学者の今福龍太さんという人がですね、沢木耕太郎さんという『深夜特急』の人とですね、対談をしてそのなかで、今福センセーがこう言うんです、


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世界には二種類の場所があるんだろうと思います。


放っておいても「何か」が起こる場所(サムシング・ハプンズ)と、

自分からアクションを仕掛けないと「何か」が起こらない場所(メイク・サムシング・ハプン)。


日本やらアメリカは後者、日常生活の形というものがもう決まっていて、抵抗なく決まりきったルーティーンをこなすことが可能な社会。

いっぽう前者、東南アジアや西アジア、中南米といった地域は、こちらがアクションを起こす前にすでに周りで無数の出来事が起こっている。

この二つは場所の属性としてはっきりあるんじゃないかと思います。

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と、今福センセー。例えばロサンゼルスやロンドンなんかに日本から遊びに行くとして、それは同じ(メイク・サムシング・ハプンの)世界であるから、旅するという感覚は希薄になってしまう。しかしアジア諸国など、日本とは違う属性の(サムシング・ハプン)世界に入っていくとき、「境界」を越えて別の世界に自分で踏み込んでいく、そこに「旅」を感じるんだ、という。
 

バングラデシュっていう国はそのサムシング・ハプン中のサムシング・ハプンな国だろうと思いますよ、どのくらいハプンなのかというと、ハップンし過ぎて発奮、着いて八分で脱糞ぐらいしてしまいそうな、ま、驚きの連続といいますか、つまりですな、バングラデシュにおけるその「境界」ってのはどんな形で感じることができるのか、それを今回のバングラデシュ行きで確かめてみたいというのがあったのですよ。


2011.12.05 日本出国~香港トランジット~バングラデシュ到着


出発の前夜、福岡中洲でのメイク・サムシング・ハプンを泣く泣くあきらめ「さよなら今夜のロマネスク」などとつぶやきながら福岡空港から出国、キャセイパシフィック航空は台北を経由して香港へ。
香港の空港で乗り換えを少し待ち、いざバングラデシュへ、となるのだが、



唐突に“愛”の話をする。



いや唐突でもない、なぜなら空港なんて場所にいると、どいつもこいつも恋愛映画の主人公になったつもりになりやがるからだ。




こんな感じだろう?


ほいで僕のような常識人からするとね、トランジットの空港のなかってのは落ち着かないよ、精神的にも、肉体的にも、座るところあんまり無いし。買い物をしようとしても高いものばかりで、お釣りで帰ってくる香港ドル硬貨はでっかいし。


誰もを自分てオンリーワン、て気分にさせちゃうトランジットの時間と空間てのは罪なもんだよ。さらには、その尊い主人公である自分以外は、すべてエキストラだと思っちゃってるもんね。きっと↑の動画みたいなBGMが聞こえてるはずだよ、ゲートがならぶ長い通路の向こうから、ほら愛しい人が駆け寄ってくるよ……。そして全力で抱きしめたあとに、そっとつぶやく「love actually is all around」



と、両腕をめいっぱい広げていても誰も飛び込んで来ないようなので、自分がどうやらエキストラらしい場所には用なんてないよ、さっさとバングラデシュへ。




現地時間の夜8時ごろ、バングラデシュの首都ダッカ到着。




バングラデシュ到着、は何度目か、けれど夜は、真っ黒な空を突き抜けて、心細いダッカの灯りのなかに降りるのは、初めての経験なのだ。



冒頭の話、バングラデシュというサムシング・ハプンズの世界への境界とはなんだったのか、それは、数回程度の入国経験からのちっぽけな予想をかるく吹き飛ばす、五感のすべてで受け止めなければならないものだった。
それは着陸直後、乗客たちがいっせいに電源を入れる携帯電話の着信音からはじまり、我さきに飛行機を飛び出ようとするそのエネルギッシュな行儀の悪さ、機外に出た瞬間からだをつつむ、むん、とした生ぬるい空気、そしてホコリと汗の混じった、熱いにおい。入国審査の列では理不尽に二時間ほど待たされて足が棒になり、車まで荷物を運んでチップをもらおうとする誰だかわからない奴らとひと悶着あり、暗闇のなかでその充血した白目だけが浮き出ている、空港の鉄条網に張り付く、何も持たない彼らからの視線、好奇心。


旅をしている、どころではない、「バングラデシュへと来た」と、全身の毛穴が開いて、からだ全部でこの国を感じているのだ。入国後一発目、気合の入った放屁も、心なしかサムシング・ハッぷぅンとうれしそうな。


いたるところで無数の何かが起こっている気配を五感で感じながら、夜のエアポート・ロードをグルシャン地区へと走る。あ、写真撮ってないので↓は誰かの動画。






同行者たちはグルシャン1のホテルにチェックイン。毛穴の広がった僕は、知り合いの家で下品な飲み会、寝ずの二日目へと突入することになる。

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